“太陽よ顔を出せ”“いや、出すな”

 福島県の今年の稲作は冷害一歩手前に陥っている。「やっぱり冷夏になったか」と暗い気持ちになった。 8月6日に米穀データバンクという所が発表した数値によると、7月末現在のコメ作況指数は本県が86で「著しい不良」となっている。同時に青森・岩手・宮城という太平洋側の県も軒並み80台だ。新聞記者のころ、この作況指数は重要なニュースだった。福島民報では必ず一面のトップを飾った。あの頃は農林省統計調査事務所が発表したものだが、今は民間調査会社がやるらしい。

 最近の冷害では平成5年がひどかった。あの時は外国米を混ぜた米しか買えず、赴任したばかりの裏磐梯Nホテルでは客の食事に外国米を出せず、地元の農家を訪ねるなどササニシキやコシヒカリを探し回った記憶がある。今回はここまでにはならないようだが、いくらコメ余りとは言っても稲作農家の収入が減れば景気に響く。さらに心配なのがモモ、ナシ、ブドウなど果樹地帯への打撃だ。甘味の無いくだものでは誰も買うまい。悪い夏になったものだ。

 ところが、この冷夏を密かに喜んでいる向きがある。言わずと知れた東京電力だ。原発の大半がストップしていて、この夏が猛暑だったら冷房にテレビにと電力が消費され、たちまち電力供給不足イコール首都圏停電が発生してしまう、と深刻な状況に置かれていた。政府も巻き込んでの節電運動まで展開していたが、この涼しさでは今のところ停電の気配はない。あくまで“強運”の東電。それに引き換え、21世紀の今も天候に左右され続ける東北農村地帯のこの夏は‘凶’と出た。

 唯一の救いはこの民間調査会社の指数が農水省に先立って行なう調査で、各地の日照時間や気温、降水量などの気象データを基にして推計したものだ、という点だ。これとは別に農水省では1平方メートル当たりの穂の数や籾の粒数を加味した実地調査をする。だから、目下のところは「生育状況に遅れがあることは確かだが、その後の気象条件で作況指数は大きく変わる」というのが同省の見解だ。つまりは、この8月に毎日、ギラギラと太陽が照りつけ日照時間の不足を補えば、なんとか平年に近い95以上の指数になれる訳だ。と言うことは、東北の太平洋側各県は快晴を願い、東京電力はこのままの冷夏を願う、という図式になる。“県内原発の不正隠しに端を発した首都圏電力不足は、とうとう真夏を迎えて太陽を巡る争いに発展した”といったら、少々ぶざけ過ぎかナ。(2003・8・7)
元福島民報社専務取締役
編集局長 星 一男