汚れ放題のベンチ

 休みの日は午前8時からBSテレビ画面の前に座ってメジャー・リーグの試合を見るのがクセ、というより習慣に近くなった。NHKが松井、イチロー、野茂の所属チームだけを放映するから、必然的にアメリカン・Lはヤンキースとマリナーズ、ナショナル・Lとなるとドジャースしか知らないことになる。こんな偏った大リ一グ観戦だが、だんだんといろんなことが分かってきた。

 その一つ。テレビではダッグアウトの様子がしょっちゅう映し出される。試合が終盤になったころ、ベンチサイドはゴミだらけになっているのに気が付いた。紙コップやら、ガムの滓(かす)やら、ヒマワリの種の殻などで汚れ放題である。アメリカで大リーガーと言えぱ社会的地位は相当に高い。移動するにしても航空機はファーストクラス、ホテルも一流に泊まれる。もちろん給料もケタ違いである。マイナーとは月とスッポンなのだ。このあたりは我が国の大相撲での関取(十両以上)と幕下との際立った差とよく似ているのだが、こんな大リーガーが、なんであんなに自分たちの居場所を汚し、汚いのを我慢しているんだろうと異様に思っていたのだが、最近さる大リ一グ通の話で合点がいった。なんと、ダッグアウトにはゴミ箱が無いのだそうだ。無い、というより置いてない、と言ったのうがよい。わざと屑入れを設備していないのだ。何故か。試合の行方がハッキリしてくると、必ずKOされた投手やらミスをしてベンチに下げられた選手が出てくる。そうした選手が怒り、フラストレーションをぶつける相手がゴミ箱なのだそうだ。怒ってゴミ箱を蹴飛ばし、ぶん投げたりする。お蔭でベンチ内はゴミだらけになる。なまじ、ゴミ捨て場があるからベンチ中が汚れてしまう。だから、いっそゴミ箱なんか無い方がきれい、という結論になっているのだ、という。

 日本ならゴミ箱を投げられないように頑丈にくくりつけたり、荒れる選手をなだめたり、マナーを言い聞かせたりするだろう。アメリカ野球界はこんなところに鷹揚で、個人主義を守っているのだろう。国民性の際立った違いを知った。ついでにもう一つ。大リ一ガーはほとんど全員がプレー中にガムを噛んではペッペッと唾を吐く。これをまねて日本のプロ選手の中でもそんな姿が目立ってきた。この“習慣”は間もなく高校野球にも波及するに違いない。丸坊主頭がガムを噛み噛み試合する、なんてことになりかねない。その時「プロはよいが、学生野球はダメ」と言える理論武装はまだ出来ていないのだ。あなたなら何と言う?(2003・8・26)
元福島民報社専務取締役
編集局長 星 一男