そこまで来た家庭用燃料電池

 まだ遠い先の話かと思っているうちに、俄に身近になってきたものに「燃料電池」がある。今から20年ほど昔、東北電力労組委員長をやっていた長島秀道さん(現宮城県議会議員)と親しく付き合ったが、長島さんが当時しきりに「電力会社が次に売るものは何だ」と頭を抱えていたのを思い出した。燃料電池の原理が明らかになり、近い将来には小型燃料電池器が各家庭に備えられて家庭内の電気を賄ったら、電力会社は商売上がったりになる、と恐れたのだ。

燃料電池についてはご存じの方も多かろうが、理屈は中学時代に必ず実験した水の電気分解の逆の方式だ。つまり水を電気分解させると酸素と水素に分解される。この逆に水素と空気中の酸素を化学反応させると電気と熱が出てくる、という訳。発電効率が良く排熱も給湯などの熱源に利用出来る上、最後は水しか排出しないというから、環境に優しい発電システムと言われる。これを完成させたらノーベル賞どころか巨万の富が得られる、と各国でシノギを削ってきた。ただ化学反応させる電解質が難しく 相当に手間取ってきたが、ここに来て、おおよそ5種類の方式が確立されて実用化に入っている。電気自動車には「個体高分子型」、離島の発電には「アルカリ型」、病院やホテル用には「個体電解質型」といった、それぞれ向きがあるようだ。

 で、家庭用燃料電池も実用化の段階を迎えた、と言われはじめた。「早ければ2005年にも本格的な普及期に入りそうだ」という。あと2年後だ。これはノンビリしてはいられない。私達のくらしを大きく変えてしまうからだ。燃料電池が普及したらどうなるか。まず、電力会社の原子力発電や火力発電といった大規模集中型の発電所から分散型発電へのシフト変えが起きてくる。コンピュータの世界でスーパーコンピュータが主流だった時代からパソコンが一般家庭に普及する時代になったのと全く同じダウンサイジングが発電の世界でも起きるのだ。ある地域では燃料電池を核にした分散型電源だけで賄うケースも起きるかも知れない。
 最終的には冷蔵庫のように各家庭に小型燃料発電機が備えられ、水素スタンドからボンベを買ってきてカードリッジ式に装填すると全ての電力が賄えるようになったら、電力会社って何するところ?ということになる。長島さんはこの事態を恐れていたわけだ。東北電力がいち早くポケベル事業に力を注いだのも「情報産業への転換」のハシリだ、と言われた。この速い変化の流れにユメユメ乗り遅れてはならんゾ、とまた思い知らされた。(2003・9・29)
元福島民報社専務取締役
編集局長 星 一男