2人の元総理引退

 中曾根康弘さんと宮沢喜一さんがとうとう引退した。というより、小泉首相に無理やり議員を辞めさせられた、という印象である。小泉さんが「これが目に入らぬか」と掲げた印寵は、自民党が決めた「衆議院議員の73歳定年制」である。でも、10月23日の小泉首相とご両人との会談は、両先輩にとっては許しがたいやり口に映ったようだ。言ってみれば、小泉さんには大先輩を丁重に扱う配慮の跡が一つも無かった、ということだ。ここにくるまでの小泉さんの言動をなぞってみても、このことが分かる。大長老に対し「長寿国日本は喜ばしいが、八十歳になっても‘まだまだ’と言っている人がいる。困っちやうんだな」と応援演説で述べる。そして「本来、進退はご自身で判断されるべきもの、という私の考えに変わりはない」とバンコックでの記者懇談で口にする、といった具合で、“私が引導を渡す前に、どうして自ら引退表明をしないのだ”という催促のニュアンスたっぷりだった。

 つまり、小泉さんはお二人を何度も訪ねて、定年制が持つ意味や若手政治家の抬頭、それを育てる時期、といったことをじっくり話し合って了解を得る、という手段を一度もとらず、ただ外から“辞めろ、辞めろ”と遠吠えしたに過ぎなかったのだ。これに中曾根さんはカチンときた。「いままで時間はあったのだから、二回でも三回でも私らと会って話し合いした上で、というのが総理・総裁の仁義だ。それをやらないで、いきなり最後通告するのは、爆弾を投げ込む一種の政治テロだ」と怒り心頭に達したのは当然だろう。その気持ちはよく分かる。宮沢さんの「総理・総裁に恥をかかす訳にはゆかないから」という返事も、その底に宮沢さんらしい激しい怒りがこもっている。

 こう書けば「筆者は高齢者だから両長老に味方するんだろう」というご意見もあろうが、どうも小泉政治が進むと、日本から潤いが失せて、カサカサした世の中になってゆくようで不安だ。怒りの末に中曾根さんが言い放った「こんなに老人を蔑ろにしたら、日本国中の高齢者が怒りますよ」にも同感だ。小泉首相が誕生したとき、中曾根さんは「小泉君は展望を持っている。見ていると体がうずくよ」と自分の若き日をダブらせてべタボメだった。それが2年半後にクビを切られた。「暮れてなお 命の限り 蝉しぐれ」の句が不気味だ。世代交代の流れが加速している永田町だが、政界再編成といった中曾根巻き返しが有るのだろうか。(2003・11・12)
元福島民報社専務取締役
編集局長 星 一男