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景観の美しさは人の幸せのためにこそ追求すべき


〜福島県景観セミナーで内藤廣氏が講演〜


9日に開催された平成18年度福島県景観セミナー9日に開催された平成18年度福島県景観セミナー
 平成18年度福島県景観セミナーが9日に福島市で開催され、建築家であり、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授を務める内藤廣氏が『景観法時代の建築とまちづくり』と題した講演を行った。内藤教授は、景観の在り方について「美しい景観を作ってもそこに人が来なくなるならそうした美しさは必要ではなく、人が幸せになるためにこそ景観を追求すべきだ」と語った。


  経済優先の街づくりが現在の荒廃の原因に  

 内藤教授は、戦後の景観を無視した日本の街づくりを批判し、「景観とは大人のためのものではなく、次世代を担う子どもたちのために配慮すべきもの」と語った。そのうえで最近の子どもによるいじめや自殺などの問題の一因には、これまでの経済優先の景観を無視したまちづくりが子どもの情操教育に悪影響を及ぼしていると指摘した。
 国土交通省も平成15年に策定した「美しい国づくり政策大綱」のなかで、戦後の建設行政については経済や効率を最優先した結果、日本の国土が本来持っていた自然の美しさを損ない、魅力のない国土となってしまったと自己批判している。
 そうした反省から生まれたのが景観法であり、本来、「美しさ」とは個々の国民の感覚に内在するもので、それ自体を法律にすることはナンセンスであるが、これまでの景観を無視した無秩序な街づくりを考慮すれば、こうした法律を作らざるを得なかったのが実際だと語った。

●建築家の“強さ”と“弱さ” ―

 景観法とはいわばテーブルの上に置かれたナイフやフォークの類であって、それを使って何を食べるか、すなわちどのような街づくりを進めるかはそれぞれの自治体や地元の人間が判断することになるという。そのなかで、それぞれの街づくりには地域に根付いた建築家が重要なカギを握る存在として積極的に寄与すべきであると語った。
 建築家でもある内藤教授は、建築家は例えば田園地帯に原色の建物を建てるなどして景観をいっぺんに台無しにしてしまう“強さ”を持つ一方で、建物のオーナーである施主の意向には逆らうことのできない“弱さ”を備えた存在だという。施主から周囲の景観にそぐわない建物の設計依頼があった場合、なんとか説得しようとする建築家は少数であり、説得に成功する例はさらに稀であることから、建築家が施主の依頼を拒否できる外部からのルールづくりが必要だと話した。

●土木と建築の間に横たわる「景観」に対する溝 ―

 また、内藤教授は、東京大学大学院で建築と土木の両方の非常勤講師を務めた経験から、両者の間にある“溝”を実感しているという。土木の立場から建築を見た場合、「建築は規律性がなく各個人が好き勝手にやっている」ように見え、一方、建築家の立場からは土木は「“軍隊”のように規則正し過ぎて息が詰まる」という。
 両者の溝はそれぞれが作り出す構造物のデザインに対する考え方にも現れ、建築家が建物を設計する場合、その建物が周囲の環境や地域性に適合するようデザインに配慮するのに対して、トンネルや橋といった公共構造物を中心とする土木の世界ではまずは機能性や効率性が最優先とされ、デザインといっても「橋の欄干にコケシを設置する程度」のものに終わってしまっているという。
 これからのまちづくりには土木や建築、あるいは都市工学といった垣根を取り払い、それぞれの長所を生かした総合的な協力が必要であると語った。

●「人口減少時代」の地方のまちづくり ―

 さらに、これからの地方のまちづくりには、人口減少を視野に入れた長期的な視点が必要だと語る。日本は2005年をピークに人口が減り続け、2100年ごろには現在の半数程度にまで減少することになるという。しかも、その7割は東京を中心とした大都市圏に居住すると考えられており、地方の居住者は現在の3分の1にまで減少すると予測されている。戦後、一貫して進められてきた人口増加と経済成長を前提としたまちづくりは今後いよいよそぐわなくなると指摘した。
 地方は東京などの都市圏のまちづくりを模倣するのではなく、それぞれの地域の実情に合わせた長期的な視野に立ったまちづくりを考えるべきだと語った。

●より良い建築がまちづくりを変える! ―

島根県芸術文化センター
島根県芸術文化センター
内藤教授は、同氏が設計に携わった物件のうち、建築物がまちづくりに好影響を与えた事例として益田市の島根県芸術文化センター(2005年)と宮崎県日向市の鉄道立体交差事業を挙げた。
 前者は人口5万人の小さな地方都市に大ホールや美術館からなる約2万平方mの複合施設を建設するという内藤氏から見れば「無謀」に思えた事業であったが、住民との対話を重視し、益田市の特産物である赤瓦を外壁材として活用するなど地域の象徴となる建物とすることで、現在、年間60万人が訪れる施設になっているという。街にシンボリックな施設が建設されたことで「特に見るべきものがなかった街」が同施設を中心に景観に配慮した街に変貌しつつあるという。
 一方、日向市の鉄道立体交差事業では、同地が杉の集散地として栄えたことから、杉材を使った駅舎を設計、その縁から将来の街づくりを担う小学生を相手にワークショップを開催したところ多くの市民の反響を呼び、杉材の街としてのコミュニティ再生の契機となったと語った。

 こうしたことから、より良いまちづくりには各地方の地元の人間に加え、外部からの人間の参画が不可欠だとし、少子高齢化といったこれまでに日本が経験したことのない変化の大波に対して国や地方自治体、民間、NPO、学識経験者などの垣根を越えて連携することが重要だと語った。(06.11.13)


東京大学大学院・内藤廣教授
プロフィール 【内藤 廣 ないとう ひろし
建築家・東京大学大学院工学系研究科社会基盤専攻教授

1950年横浜市生まれ。建築家。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了。1981年に内藤廣建築設計事務所設立。2001年から東京大学大学院工学系研究科社会基盤学助教授、03年から同教授。
[代表作品]海の博物館(1992年・三重県)、安曇野ちひろ美術館(1997年・長野県)、牧野富太郎記念館(1999年・高知県)、島根県芸術文化センター(2005年・島根県)など
 



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