Home >今、歴史的建造物を遺す意義は何か? 会員専用はこちら

今、歴史的建造物を遺す意義は何か?
行政、建築専門家、市民の役割と一体感必要

 先日、福島市で福島県等が主催する「震災復興セミナー」が開かれ、「今、歴史的建築物を遺す意義は何か?」と題するテーマに惹かれて参加した。昨年の3月11日の東日本大震災以降、全国各地で重要な歴史的建造物は崩壊、解体の危機に瀕している。福島市内の歴史ある建造物も同様に解体が進められ心を痛めていた。ちょうどこうした時期に、県や関連団体が歴史ある建造物の保存に狼煙(のろし)を上げたことに、遅きに失した感は否めないが意義ある内容だった。
 
 特に新聞でも取り上げられた桜の聖母学院旧ノートルダム修道院や福島教会、竹屋旅館など、市内でも歴史ある建築物の解体は、市民はもちろん、全国から多くの保存を切望する声が寄せられた。県や福島市当局の冷ややかな対応は、文化財を大切にする人々からは、対応の無力さが問われて当然であった。「歴史ある建造物を壊すということはその時代を生きた人々の歴史をも福島から消すことと同じだ。一度壊したモノは二度と元に戻すことは出来ない」という声は、無力な行政と保存の意義を持たない担当者には伝わらないが、この大震災を機に重い腰を上げたような気がする。(写真は講演する降幡廣信氏)

チェコ人の歴史保存への意識に驚き

 最も心に残ったのは、「歴史ある建物を大切にすることは、自らの国の歴史をも大切にすることと同じだ」と流暢な日本語で語った駐日チェコ共和国大使館のペトル・ホリー氏(写真)の言葉だ。彼は日本全国でチェコ人建築家が多くの素晴らしい建築を遺していることに触れ、チェコ人の建築家や設計士を紹介したが、桜の聖母・旧ノートルダム寺院を建築したのはチェコ人のヤン・ヨゼフ・スワガーだと紹介したほか、全国の有名な建築物もチェコ人建築家が多く登場した。

また、「チェコを始めヨーロッパ諸国は古い物を徹底して遺す考えがあり、クギの一本まで復元・再現のために残します。世界に誇る素晴らしい技術を有する日本が、この福島市にある旧ノートルダム寺院ひとつ助けられないのは信じられない」と訴え残念がった。また、『今、どうして歴史的建築物か?』と題して講演した建築家の降幡廣信氏は「家主の『今、すぐにも取り壊したい』という結論を持つのは当然で、建築専門家は、将来の展望に立ったアドバイスを行うことが大切。福島には素晴らしい建築物が多く残されている。行政も専門家も市民も、歴史を後世に残す責任がある」と保存の重要性を訴えた。

市民一人ひとりが、歴史的背景を知る

 後半のパネルディスカッションに参加した鈴木勇人さん(写真下・右端)は「建築専門家の最初の一言で保存を断念してしまうケースが多い。保存には資金面のバックアップ体制が欠かせない。行政が中心となり銀行と関係者が“保存と利活用”を一体感を持って進める以外ない」と現状を語った。同じ参加の紺野滋さんは「(歴史ある建造物を)持っている人と残したい人の意見が一致して始めて保存は進む話しで、市民一人ひとりが、歴史的背景を知ることが文化財を残すきっかけになる」と自ら情報発信を続けている取り組みを紹介した。
 結論的は、市民の「福島」という歴史に対する風土や認識の無さ、さらには行政のこれまでの取り組みの欠如や認識の無さ、保存という手段より解体という簡単な手段を選ぶ市民の意識の無さ等々が、福島から歴史ある建造物を葬り去ってきた。これ以上に福島から文化財的建造物を失っていくことは、「観光」としての福島からも遠ざかっていく。今一度、福島の歴史に県民、市民一人ひとりがしっかりと「保存とは何か」について見つめ直す時が来たと感じさせたセミナーとなった。(12.01.20)





Copyright (C) Medianetplan Co.,Ltd. All Rights Reserved.
このサイトに記載された記事及び画像の無断転載を禁じます。