呑み込まれている人たち

2000.2


 建設業界はまさにISO花盛り。ISOを取得しなければ建設省の入札参加も難しいとなれば、まずはどんなに経費がかかろうとも"キックオフ"を宣言したいところだ。会社の体制が整わないまま“見切り発車”してしまった会社もある。社長は入札参加のためにはどうしても取ることにこだわり、社員はそんなに金をかけてまで、いま取る必要があるのかに分かれる。また社員は各セミナーに参加してその必要性をコンサルタントから得々と聞かされ、社に持ち帰っても社長の反応はいまひとつと言うこともある。トップダウンかそれともボトムアップか、会社によって様々である。

 何はともあれ、垂れ幕もつくりキックオフを宣言、1年後の認証をめざして社長の号令がかかった。だが社長に迷いが生じてきた。「ISOをとっても実際に仕事に結びつくのか」「9002でなく9001の方が将来的に良かったのか」「いや9001も9002も2年後ぐらいには統一される話しもあるし14000を取った方が良かったかな」。こんな迷いばかりか「残業して手順書づくりやらコンピュータ操作で社員は事務所にいる時間も多くなった」「残業手当やら会議の諸経費もばかにならない」「これからはコンピュータのできる社員の採用や社員の教育費も大変だ」とひとり夜更けに悩む日も増える。「最近、事務所に社員のいる時間が多くて困ったよ。公共工事の受注も減ったし、こんな時こそ民間の営業に歩いて欲しいよ」とつい仲間に愚痴をこぼす経営者が見えそうだ。

 「あんたは、社員の資質向上やらムダの削減、手順書による標準化など良いとこばかり述べるが、実際、我々のような会社規模では、本当にISOに会社は潰されるよ」と言う声も聞こえる。「ましてコンサルタントの言うようにやっていたんじゃ辞める社員も出てくるし、いま現場のベテランに辞められたら、この辺りじゃ笑いもんだ」という穏健派。
 「社長!違うんですよ!。ISOで仕事が取れれは゛それにこしたことはないですけど、取得したことによって会社のレベルも社員のレベルもグンと上がりますよ。これまでの会社の歴史に、風穴を開けなければ何も変わりませんよ。社員も『ウチは何も起きないし、何もしない会社だから、別に変わらないよ』とタカをくくりますよ!」「ISOだけじゃないですよ。2004年から建設省では全事業の一定の規模から建設CALS/ECを導入してISOもその条件のひとつに位置づけています。そこにPMも加わり発注者側にも意識の変化がおきますよー」 ネどと、コンサルタント張りに熱弁を振るったその時「何だい、その“PM”っていうのは?」と社長が聞いてきた。まさにこの事なのである。

 業界はいま横文字に呑み込まれ、何をしたらいいのか分からない。暗中模索のなかに勝手な憶測を流すコンサルタントが悪いのか、それとも我々マスコミが、ただあおっているに過ぎないのか。交通整理もせずに、あれもこれもと押し出してくる建設省や国の方策が悪いのか。今一度立ち止まって考える時間があってもいいんじゃないかと誰もが思いたい。
 だが、確かに日本全体が明治維新や終戦直後のような激動期にある。そのうねりの中で、建設業界もまた生まれ変わろうとしている。何がどのように変わるのかは、誰もが予測もつかず断言もできない。その中で、わが社は生き残るのだという堅い決意のある企業だけに21世紀が見えてくる。ISO取得はまだその“始まり”に過ぎない。             (2000.2)