スピードはすべての原点

2000.11


 夢と感動を心に残した“シドニーオリンピック2000”。それぞれの競技にそれぞれの国のレベルが垣間見えた。特に女子・男子マラソンを始めとする陸上トラック競技ではスピードの勝負が明暗を分けた。男女のトラック15000、10000メートルは圧巻であった。ラスト400メートルはまさに100メートル競技を見ているかのようなハイスピードでゴールした。とても日本選手の競技レベルではなかった。期待のかかったサッカーもまたアメリカ選手が見せた後半のスピードあるフットワークは度肝を抜いた。スピードに敗れた準々決勝戦だった。、そんな中で唯一、世界レベルのハイスピードで勝ったのが、女子マラソンの高橋尚子選手だった。

 スピードが求められるのは、何もスポーツの世界だけではない。流通業界のドンであるダイエーの中内功会長は「新しい時代の経営にはスピードが必要だ」と代表権を返上し取締役も辞任した。老舗デパート「三越」を振り払い、その後もジャスコやイトーヨーカ堂らをも抑え小売業界トップの座に君臨した中内氏の経営手腕は高い評価を得てきたが、それも時代である。そのダイエーもまた、コンビニのセブン・イレブンに売上高で抜かれ、ついにその座を明け渡した。混迷する小売り業界の競争激化、業態再編などスピードすざまじさは、建設業界の「護送船団方式」で走るスピードから見たらどうなのだろうか。

 この業界にも「これからの経営は、100メートルをフルスピードで走れない経営者は即、引退すべきだ」とスピードある経営に立ち向かうのが、若き経営者望月郁夫48歳。東北最大手の高弥建設の新社長である。「経営は新しい方向性を探り出し、それにあった手を打たなければダメだ。過去の経験はこれからの経営にはむしろ妨げになる」と言い切った。経営者は若ければ若いほどいいと社内ビジネススクールを開校。自ら“後継者づくり”をすでにスタートさせたのである。
 高弥建設は不採算分野の温泉事業や関連会社で発生した特別損失が原因で、1930年の創業以来初めて64億円赤字を計上した。それらをバッサリと切り落とし、望月新体制はスリム化からのスタートととなった。すでに公共事業の先細りに期待感はなく、マンションなどの民間分野に収益を見出すが、“競争の中にしか企業は鍛えられない”と敢えて火中の栗を拾った。

 10月11日の夜を覚えている読者も多いだろう。それはボクシング、ライト級世界タイトルマッチが行われ、王者畑山と挑 ェメ坂本の壮絶な打ち合いに心を奪われたはずだ。1ラウンドから、これまでに見たことのない壮絶なパンチの応酬に固唾を呑んだ。これまでとは全く違ったボクシングスタイルが展開し驚いた。たとえ天才ボクサーと称えられる畑山と言えども、あのスピードを身につけなかったら、坂本のボディーブローに屈したはずだ。
 積極的に打って出た畑山のスピードこそ経営で学ぶべきスタイルである。心臓という経営、頭脳という研究開発、足腰となる営業、感となる経営センスなどすべて機能してこそ戦える集団となる。新しい時代の勝者となるには、経営にスピードを取り入れた企業だけなのかもしれない。(2000.11)