あなた、社会貢献できますか?
受刑者に「左官」技術教えて11年!

主幹 富田正廣


 10月14日は雲一つない秋晴れの日曜日。福島市南沢又にある福島刑務所では、恒例となった『矯正展』で賑わった。受刑者が作った家具や木工製品などに年々人気が高まり、一般 市民や仕入れ業者などが競って買い求める姿は、全国の施設でも珍しいようだ。特に受刑者が収穫したジャガイモやネギなどの野菜も人気の的である。
 その展示会の一角に、受刑者が擬木で作ったテーブルセットや鶴などの作品が展示され、訪れた人々につくった過程を説くのは、福島市で左官業を営む武藤光男さん(60才)である。

 そんな武藤さんと出会ったのは2日前だった。国際NGOアジア刑政財団が主催した「国際司法研修員歓迎レセプション」が福島市で開かれた。席上、大山福島刑務所所長は来賓挨拶で言った。「平成4年には全国4万人いた受刑者は、現在6万人を越え犯罪は年々増える傾向にある。特に高齢者、外国人と女性が増え、女子の栃木刑務所はすでに120%の収容率になった。福島では71才で31回の入出所を繰り返した者もいる。福島も110%に迫る収容率だ。特に覚醒剤と窃盗で全体の60%を占め、キャパシティー(収容能力)と職員の数も足りない」と現状を語ったことに会場は驚きを見せた。

 その武藤さんは福島刑務所にほど近い場所で、有限会社武藤左官店を営んでいる。もう11年間に渡り、受刑者に月に4日から6日、左官の技術と学科を教え続けている。受刑者と過ごすのは午前9時から午後1時までの約4時間だ。平均年齢40才の男子5〜6人を1年間に渡って指導するのである。遠くは青森や秋田の施設から長期入所者も指導を受けにやって来る。「一生懸命やれば、必ずできる。がんばれよ!」と暖かい言葉をかけ続けることで、受刑者はひとつひとつの技術をマスターしていく。技術とともに心も教えなければ 「矯正」につながらないのだ。

 これまで教えた受刑者の数は70人にのぼる。「特別な場所で特別 な人間に教えているという気持ちはない」と言い切る顔に、これまでの苦労を乗り越えた実績と信念がある。「何十年という人生を他人(ひと)に頼り、嘘で固めた人生を歩んできた受刑者は、これまで良い人に巡り会うことがなかったんでしょうね」と受刑者をいたわる。だが時には「4〜5年入っても世の中の為にならないでどうする!。君たちはどのくらい社会から嫌われているか分かるか!」と怒りを爆発させ叱咤するが、受刑者に人生を語りさとすことは、特に大切な部分なのである。

 「更正した人間も多く、結婚したという話しや子供ができたという報告を受けると本当にうれしい」と言う武藤さんは、所内の左官科指導員の非常勤講師である。現在の大山卓也所長で6人の歴代所長に仕えた。ここ福島刑務所は全国一の設備をもち、左官の他に型枠、足場、鉄筋の技術も指導している。所内に就職支援センターがあるのも全国でここだけである。

 当初は所属する組合が主体となって始まった事業だったが、いつしか武藤さん個人が指導する立場となった。武藤さん曰く「いつの時代も社会に少しでも貢献するという姿勢が大事。会社の利益の一部をいろいろな形で還元してこそ、建設業界が一般 市民から見直されていくのではー」と。     (2001.10)