この作品は実に素晴らしい!

            主幹 富田正廣


 21回目となる県建築文化賞の授賞式が1月20日行われ、晴れの正賞に輝いたのは県文化財センター白河館『まほろん』だ。心から関係者に対し「おめでとう!」と申し上げたい。
 だが読者の皆さんはここ数年の変化に気づいているだろうか。下記のホームページアドレスにアクセスしていただきたい。第10回(1991年)の栄川酒造磐梯工場を最後に民間建築が正賞に輝いた年は1998年の太田総合病院付属老人保健施設「桔梗」までない。今年も県有施設が輝いた。他に民間建築物が正賞に輝いたのは第1回「鈴善煉瓦蔵・きゅうの辻」と「大津加本店による街並」、第3回の裏磐梯高原ホテル、第8回の会津藩校日新館に限られている。民間の勝率は20%に過ぎない。正賞の該当がなかった第11回と20回を除けばすべて公共建築物となる。なぜこんなに公共建築物に偏った建築文化賞となるのか不思議である。「県」という冠がついているから県や市町村の物件が対象なのかと理解してしまうほどだ。それなら民間建築物だけをあつめた「県民間建築文化賞」なるものを新たに制定することを提案したい。

 先日、かっては建築文化賞の審査員を務めたある県OBの方に聞く機会があった。恥を承知で当方から「ところで県建築文化賞は実際のところ、デザイン重視で、金をかけた大型物件なら正賞候補は間違いないんでしょう?」とぶしつけな質問をした。「そんなことはないよ。参加作品を白紙の状態から絞っていくのだから」と返ってきた。「しかし、有名な建築家の先生の作品やお偉い方の推薦なら落とすわけなどないですよね?」と食い下がった。「うーん、それはどうか分からないが、『この作品は実に素晴らしい!』と審査委員長サンが言えば、われわれが口を挟む余地などなくなることはあるよ」と苦笑した。以前、関係者から聞いた話だが、作品を集めるにも苦労するとのことだった。

 県や市町村がそれなりの金をかけて造る公共施設が、優れたデザインで街並に調和する公共建築物をつくることなど当たり前のことだ。まして美しいまちづくりに寄与し自然の景観要素をうまく利用することなど、すべての権限を持つ自治体が考えないことなどあり得ない。審査の対象は他にも用途に応じた機能性、外構の十分な整備、地域の風土、うるおい、県産材の効果的な利用などが唱われているが、自治体がクリアするには何の不足もない。だが、民間がこれらの条件をクリアするには規制や条件があまりにも多い。公共建築と民間建築を同じ土俵に上げ競うところに無理があるのではないか。いまこそ地場の建築技術の向上や民間活力の導入が求められる時に、県も独自に民間建築物件に光を与えるべきであり、デザイン重視にこだわらず、金をかけずに機能的、効率的で、かつ高齢化社会に対応した民間建築物にもっと目を向ければ、正賞に匹敵する『この作品は実に素晴らしい!』本物の物件はまだあるはずだ。あまりにも格式の高い建築文化賞では、地元の建築業界だけでなく県民にもソッポを向かれていくだろう。
  美智子皇后の実家である旧正田邸も取り壊された。新しいもの、大きいものだけに、こころを奪われるのではなく、歴史的、文化財的に価値ある建築物を保存再生することも忘れて欲しくない。新しいもの、古いものが調和してこそ、その街に歴史的付加価値が存在していく。県建築文化賞がもっと幅広い観点から作品にスポットを当てれば、庶民的な県民の一大イベントとして定着するのではないか。さらなる発展に期待する。

★★関連ホームページへのアクセス

■福島県建築文化賞 (第1回〜第19回)
http://www.pat.hi-ho.ne.jp/mizshin/prize.html
■福島県建築文化賞 (第20回)
http://www.pref.fukushima.jp/jyuutaku/bunkasyou.htm