いまどきの世相

地味な花に光さして

   星 一男
元 福島民報社専務取締役 郡山総支社長


 この原稿が読まれる頃は、とうにシドニー・オリンビックも終わって余韻も消えかかっていることと思う。でも締め切りが五輪の真っ最中だったもんで、どうしてもオリンピックが頭から離れない。…で、あの騒ぎぶりについて少々感想を述べさせて頂きたい。
 この種のスポーツ大会では何時もあることだが、今回もマスコミの騒ぎよう、それも先走って獲得メダルを予想して他社に抜け駆けしたい、という態度というが方針がエスカレートした。元新聞記者としてはその気持が分からぬでもないが、特ダネ意識は周りの顰蹙(ひんしゆく)など目にも耳にも人らず、報道各社だけの世界の中で先陣争いに進む。そしてプライバシーも人権も蹴散らす騒ぎを演ずるものだ。あれもこれも、と各社が〃勝手〃に予想を立てた結果、あらかたの競技でメダルに手が届く仕儀と相成った。少し冷静に考えれば、いかに日本の競技界が優れていても、300にのぼる種目の全てでl位、2位、3位を争うことなんてあり得ないのだが…。

 結果は予想の大半が当たらず、NHKはじめマスコミ各社があまり光を当てなかった選手が地味な努力に花を咲かせたケースが一杯出た。柔道での滝本誠(金)、日下部喜栄(銅)、山下まゆみ(銅)、そしてレスリングなどの選手たち。中でも日下部さんの「何がなんでもメダルを」、山下さんの「誰もメダル候補なんて言わないから、意地でもメダルを取りたかった」の談話は泣かせた。〃それ見たことか〃という気持ちだ。
 最も貴重だったのは女子ソフトポールだ。何故かNHKはじめ各社とも扱いが冷たかった。予選で快進撃を続け7連勝しても放送は無かった。やっと決勝トーナメントになってワイワイ言いはじめた。その中で掴んだ銀メダル、これは価値があった。それに引き換え、盛んに待ち上げ、タレントばりの扱いで、金メダルも取れそうな予想をバラまいた水泳、体操陣のていたらくはどうだ。早々と銀を取った田畑選千の「金でなくてメッチャ悔しい」の明るい現代っ子ぶりだけが救いだった。

 もう一点は報道や応援が選手に与えるプレッシャーのことだ。64年前、ベルリン五輪の水泳平泳200メートルで全メダルを取った前畑秀子選千が、戦時中の国を挙げた応援で受けたプレッシャーは想像を絶するものだった。もし勝てなかったら、帰国途中の客船から海に飛ぴ込んで死ぬつもりだった。あたかもドイツはヒトラーのナチ政権下。ライバルのゲネンゲル選手もヒトラー直々の激励を受けていた。その中での優勝。武士道の匂いのする一戦だった。昔は軍閥政府の、今は大量のマスコミの圧力を背にしての戦い「このプレッシャーをなんとか緩和してあげられないものか」と思う。
 さりとて報道なしでは、これまた無味乾燥になる。程よいバランス感覚をマスコミ全体で持つ努力が欲しい。むやみ矢鱈になんでも知らせた方が勝ち、の風潮だけは自制して、大人の〃第3の権力〃ぶりを発揮してほしいのだ。(2000.11)