スパゲティで査察官



 12月10日ストックホルムで晴れのノーベル賞を授与された小柴昌俊さんと田中耕一さん、本当におめでとう。無事に授与式を終えてよかった、と心から思う。受賞の発表以来、サラリーマンで人柄も憎めない田中さんに人気が集まり新聞やテレビでの扱いが田中さんに集中、小柴さんの影が薄くなっていたきらいがあった。これを反省したのか、授与式当日の毎日新聞や共同通信の配信記事を載せた福島民報など地方紙は小柴夫妻の長かった努力にスポットが当てられていた。大変結構だった。

 その小柴さんがストックホルムに着いた直後の記者会見で「来る途中の車からに寿司屋の看板が見えたよ」と日本食に期待を示し、隣の田中さんも「私も見ました。しっかり見えましたよ」と相槌を打つ場面があった。“折角の外国なんだからその国の料理を食べればいいのに”と思う人も多いだろうが、外国で日本食の店を見るとひと安心するものだ。

 月刊誌「選択」を“斜め読み”していたら面白い記事があった。「イタリア農業省が来年からヨーロッパ各国にある二万五千軒のイタリア・レストランヘ査察官を派遣する」というのだ。今、イラクで行われている大量破壊兵器の査察にヒントを得たのかどうかは分からないが、各国でイタリア料理といいながら変な料理を出している店が多すぎるため、本当のイタリア料理を出している店に「真正イタリア・レストラン」の証明書を発行するのだそうだ。“たかが料理で”と冷笑する向きもあろうが、イタリア文化を守ろうという心意気は見事と言うべきだろう。

 私も米国フロリダ州でスパゲティを食べたことが何回かあったが“延びたうどんのケチャップ和え”風のものばかりだった。白髪一本の芯を残すアルデンテ(硬茄で)なんては望むべくもなく、ただ量の多さにびっくりするだけだった。イギリスでもビシャビシャらしい。このイタリアの見識を日本も見習ってみてはどうか、と思うのだ。
 冒頭に書いたストックホルムの寿司屋も、あのあと地元記者から「寿司屋といってもネタは少ないですよ」と教えられて、小柴さんも田中さんも少しガッカリした顔をした。

 「食は文化なり」と言う。エスニックブームとやらで国籍不明の料理の方がもてはやされる変な時代だし、寿司も国際化していろんなバリエーションが生まれている。それはそれで仕方がないが、でもやっぱり本来の日本食の伝統を守り、外国の日本レストランでは真正和食を提供して日本文化を知ってもらうよう、努力すべき時期にそろそろ来ているのではないか。(2002.12.14)