真夜中の薬売り


 全くの冷夏に終わってしまったが、この8月下旬から9月上旬にかけて、世の中はいろんな話題があった。それらの裏にあるのは、音を立てて変わってゆく“脱皮”の流れではないか、と思うのだ。テレビ画面にいきなり「賛成、賛成、大賛成だネ。今の厚生大臣って名前を忘れたけど、厚生省も一度、夜の街を歩いてみると、よく分かるハズだよ、コンビニでの薬売りの有り難さがネ」という、ベらんめぇ口調の声と、お馴染みの顔が現れた。石原慎太郎東京都知事である。ディスカウント・チェーンがテレビ電話を使って深夜に大衆薬を販売していることに、厚生労働省が「薬事法違反の疑いあり」と待ったをかけたことへのコメントである。つまり石原知事は国に刃向かうスタンスを示した訳だ。

 ことの起こりは「ドン・キホーテ」が8月から都内の10店舗にテレビ電話を設置し、薬を買いに来た客に別の場所に設けられた薬剤師常駐センターにいる薬剤師3人とテレビ電話で話をしながら風邪薬などの大衆薬を売る、という新しいサービスを開始したことにある。これに、すぐ厚生労働省が反応し法律違反を言い出した、ということなのである。率直に言えば、これは厚生労働省の方が正しい。薬事法や薬剤師法で、患者に対する投薬は第三者の手を経ないで直接手渡すことが定められている。だから薬局では薬剤師からか、薬剤師の立ち会いの下で薬を渡さなければならないのだ。この点で、ドン・キホーテのケースは、テレビ電話を通じての対話が薬剤師立ち会いに当たるかどうか、疑わしいのだ。だから病院処方箋による薬を郵送して届けることも法律違反になる。郵便配達人という第三者を経由するからだ。唯一の例外は無医村である双葉郡葛尾村が全戸に備えたテレビ電話とバイタルセンサーを利用して3年前から始めた遠隔診療での処方箋による投薬が郵送されていることだ。これだって事業を進めるNTTと郵政省が、渋る厚生省と大議論した末の認可だった。

 で、問題は今後の進め方だ。確かに石原知事でなくても深夜に頭痛や歯痛、腹痛で薬が欲しいときに薬局が閉まっている。その時のドン・キホーテは救いの神に見えるだろう。でも古い法律が聳え立っている。これが今の世の中にそぐわないのなら、直ちに改正すればいい。深夜のテレビ電話商法が現代に合っているなら、実力者石原さんが先頭に立って規制緩和を進めればいいのだ。「賛成、賛成」はその後ではないのか。知事がヤジ馬になっては困る。(2003・9・1 0)