とうとうドロ試合の総裁クビ切り劇


 「クビにならない“キテレツ総裁"のことが、どうにも胸につかえている」と7月28日にこの欄で書いたのが、今や“つかえ”どころか大きな腫瘍=がんになったみたいである。日本道路公団藤井治芳総裁の解任問題だ。この藤井総裁なるご仁が相当に風変わりな人物であることは先に幾つか取り上げた。この春に天皇・皇后両陛下がご視察になる東京湾アクアラインの事前チェックをいきなりキャンセルして雲隠れしたり、毎日の出勤が“別宅”からワゴン車を使ったり・・・。日常生活が人とかなり変わっていても勤務に支障が無ければ、それはそれでいいのかも知れない。が、「道路公団総裁としてこれ以上の重要な仕事って何だ」と職員たちが戸惑い、大騒ぎするような行動があっては困るのである。まして、国会答弁で財務諸表をめぐって白々しいウソを言ったりしては、総裁としての資質に欠ける、と判断されてもやむを得ないのではないか。

 もともと、構造改革を政治の旗印にした小泉首相は進まぬ道路公団改革の中で流れにサオさす数多い抵抗のうち、最も太いサオを握っているのが藤井総裁をトップにした公団スタッフだ、と見ていた。しかし、扇前国土交通大臣は辞表も求めず解任もしなかった。これは総裁としての資質を認めたことなのか、それとも相手の老獪さに丸め込まれて手が出せなかったのか、いまとなっては知る術もない。10月6日の藤井総裁の発言からみて、扇大臣は「財務諸表は無かった」という総裁の話を認めていたフシがある。

 仕方がないから、小泉首相は内閣改造して新大臣にやらせよう、と考えたのだろう。で、”小泉ビックリ人事”第2弾として石原伸晃氏を国土交通相に任命。石原大臣もすぐ総裁の辞表提出を求めた。“これで一件落者"と遠山の金さんを地でゆくのか、と思ったらとんでもなかった。藤井氏は「そんな若造、何を言うか」とばかり、電話で辞表を拒んだ。ここからドロ沼に入ってゆく。国交省の聴聞、解任、これに対抗して行政訴訟、と長期化が予想されている。大臣が任命権者なら罷免権も容易に行使できる、と思ったのが間違いのようである。罷免権を行使するには複雑な過程が必要なのだ。つまり役人のクビ切りは簡単に出来ないように仕組まれているのである。「有能な役人が、悪い大臣に私情でクビにされたりしないように」というのが、この仕組みの理念なのだが、これを逆手に使われたフシがありありだ。なんとも狡猾なことだ。一方で健康を理由に勇退する星野仙一監督の潔さがあるだけに、尚更いまいましい。(2003・10・20)