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Home >斜め読み聞きかじり >2009/6/5

キャデラックと平家物語

建設メディア顧問
マスコミ人OB会福島ペンクラブ会長
元福島民報専務・編集局長 星一男氏
星一男氏

 < 香れる者も久しからず、唯、春の夜の夢のごとし > は平家物語で最も有名な一節だが、6月1日に破産法適用を受けた米ゼネラル・モーターズ(GM)のニュースを伝える朝日新聞「天声人語」と読売新聞夕刊の「よみうり寸評」が共にこの一節を引用した。そして < 盛者必衰のことわり> と断じた。GMといってもピンと来ない向きもキャデラック、ビュイック、シボレーと来れば分かるだろう。筆者には、これらの名前に終戦直後の飢えた時代の風景がダブって浮かんでくるのだ。宮城県多賀城市。戦前は東北有数の漁港塩釜市に隣接する比較的豊かな農村だった。戦時中に海軍省が横須賀海軍工廠の分工場を多賀城に建設を決め、半ば強制的に太平洋岸に近い農地を買収して火工部と機銃部を作って生産を急いだ。敗戦で軍も工員も雲散霧消した跡に米軍が進駐してきた。間もなく一角に高級将校のための住宅が建てられ、アッと言う間にアメリカ住宅街が出現した。そして仙台・苦竹キャンプに通勤するアメ車が毎日ひっきりなしに家の前を通った。色とりどりのキャデラック、ビュイック、シボレ、ナッシュ、リンカーン、ボンテヤツク、オズモービル、パッカード…木造りワゴン車も混じった。これらをひと目で言い当てる遊びが腹を減らした子供たちの間で流行った。フロントの両脇に穴が4つはビュィック、角2本のマークはキャデラック、バンパーで車輪が見えないのがナッシュ、などと覚えた。

 20世紀のある時期、GMは絶対に破産など、あるはずが無かった世界一の会社だった。アメリカが国力を肥大させ、資本主義の総本山に成り上がった源となったGM。消費が神様だったころに技術と資材を惜しみなく注ぎ込む自動車産業が全盛を迎えた20世紀、アメリカの世紀である。キャデラックは”散水車で水を撒いていく”ようにガソリンをガブ飲みして走った。それが富の象徴でありアメリカン・ドリームだった。黄金時代を迎えたハリウッドの超スターたちも黄金のキャデラックに憧れ、そのハンドルと座席を手にした。
 その陰に奢りと経営者の個人的欲望が潜んでいた。21世紀にエコの時代を迎える。石油はOPECの手に振られ原油高は天井知らずとなった。それでもGMはガブ飲み車から方向転換出来なかった。小型車も作れなかった。奢ったまま外が見えなくなっていた。そして資本の6割を国が握る"国営会社"に生まれ変わった。オバマ大統領が株主代表になった。資本主義の総本山に社会主義の色が一本あぎやかに線を引いた。そんなオバマ魔術、果して奏功するか。(2009・6・10)





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