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Home >斜め読み聞きかじり >2011/3/13

頭から消えぬ“2つのひっそり”

建設メディア顧問
マスコミ人OB会福島ペンクラブ会長
元福島民報専務・編集局長 星一男氏
星一男氏

 年を重ねてくると、いろんなことに出会うものだ。新聞の片隅にヒッソリと報じられいたボブ・フエラーの死亡記事に出くわしたりする。かつては、世界の“火の玉’’投手として大リーグで名をはせた名投手である。「どんだけ速いんだろうなア」「余りに速くて、煙のように目に見えないんだ、つて言うゼ」などと口さがもないことを言い合っては、想像をたくましくしていたものだった。そのボブ・フエラーが死亡記事になっていても、あまり人が騒がない。

 話はガラッと変わるが、名女優高峰秀子さんの場合も同様だった。昨年末に亡くなられていたのに、今年元旦の新聞で訃報が報じられた。旧蝋28日に、86歳で他界されたという。そして「葬儀はいっさい無用」との遺言が残されていたとか。“この人らしい”という評もあった。5歳で叔母の養女にされて松竹蒲田撮影所につれていかれて、女の子の行列の最後に立たされて野村芳亭映画監督の目にとまって映画「母」の子役に選ばれた。「思えば、その日が私の人生の『運命の日』であった」とのちに書いている。ここで女優高峰秀子が誕生したのだった。(雑誌「選択」3月号’’本に遇う’’より)
 
 ところが、東北の田舎に住むガキどもには、こんないきさつなど、てんで分からない。「綴り方教室」の映画に現われるカワイイおねえちゃんに憧れ、デコちゃん、デコちゃん、と持てはやすだけだ。それは我々下賤の世界とは違うユートピアの世界に住んでいる憧れなのだ。その辺のことは今の子供やヤングと少しも変わっちやいない。これが長じると「二十四の瞳」(木下恵介監督)で全国の紅涙を絞る。筆者の大学生時代だ。なけなしの小遣いをはたいで10数回も映画館に通って「カラスなぜ泣くの…」に何度涙を絞ったことか。
 
 一方では戦後初の総天然色カラーという触れ込みで東宝が封切った「カルメン故郷に帰る」ではアプレゲールを演じ、塩屋岬灯台を舞台にした「喜びも悲しみも幾年月」ら、数々の文芸作品で名演技をみせていることは重々承知だ。
 それが、突然、50代でいきなり引退してしまうのだ。女優として世間との付き合いを断ってしまう。めずらしく新聞のインタビューに応じた彼女は「みんな捨てた」「人生の店仕舞い」「私が消えたら、すべて痕跡が消えるのがいいのよ。残すものもなく、すべて整理されている状態にしてある」と語っていた。そのときの御年63歳だった。それから23年こうして生きて、やおら世を去っていったのである。新年早々から2つのびっくりが頭を離れない。(2011・3・10)






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